急行 飯田線秘境駅号

JR東海が不定期で運行している「飯田線秘境駅号」が、平成31年春にも「春の魅力溢れる列車旅を紹介する春の「Shupo[シュポ]」キャンペーン」(JR東海ニュースリリースより)の1つとして運行されました。

乗車したのは豊橋発の下り列車で、運行時刻は下記の通り。
秘境駅巡りを看板にしているだけあって、見どころ駅では停車時間をゆったりと取ってあり、乗車時間5時間40分という長丁場ですが、秘境駅探訪のみではなく、JR東海社員の皆さんのおもてなしや、地元の特産品販売などが要所要所の駅で企画されており、アッと言う間に時間が過ぎて行きます。

飯田線秘境駅号時刻表

豊橋駅発車ホームの案内表示には、今や絶滅種とも言える「急行」の文字。
若い方にはピンと来ないかも知れませんが、50代半ばの私にはノスタルジックでいい雰囲気。
昔は、上野や大阪などの巨大駅に行けば、各方面に向う「急行」の文字がズラリと並んでいたものです。

豊橋駅発車案内表示

車両は、JR東海373系3両編成。
この日(4月14日)の乗車率は8割程度で、1号車にはJR東海ツアーズの団体さんが乗り込み、個人客は主に2、3号車が割当られていたようです。
団体さんの中には車両端のボックス席を陣取り、テーブルの上に溢れんばかり(文字通りの山盛り)の飲食物を持ち込み「こんなにどうするの?」状態だったのですが、降りる頃にはあらかた食べ、飲み尽くし、おばちゃんパワーの凄さを目の当りに。
対して個人客は、男性1人の方も多く、熟年カップルもそこそこ見受けられるなど、落ち着いた雰囲気で旅行が楽しめました。

豊橋駅飯田線ホーム

豊橋駅では、出発時にJR東海の社員さんがズラリとホームに並んで見送りがあるのですが、出発直後に通過する豊橋運輸区前でも、写真のような盛大な見送りがあります。
また、車内では車掌さんの他に各車両ごとに事務系の社員さんも配置され、写真のシャッター係や各種演出に大忙し。
車掌さんの放送も中々手の込んだもので、「飯田線を盛り上げよう」というコンセプトが伝わってくる気持ちの良いものでした。

豊橋運輸区の皆さんによるお見送り

乗車すると配られるのが、写真の2点。
「乗車証」と「飯田線秘境7駅の見どころマップ」

「見どころマップ」を広げると、このように各駅ごとの歴史や見どころが、イラスト入りで解りやすく解説されています。
このマップのお陰で、駅巡りが10倍楽しくなりました。

最初の停車駅、新城での貴重な1コマ。
この駅では、後から来る特急「ワイドビュー伊那路1号」に抜かれるのですが、それのみではなく上り普通電車とも交換します
そのため、写真のような3線に並んだ写真が撮影できます。もちろん「秘境駅号」運転日ならではの貴重なロケーション。

右から「飯田線秘境駅号」「ワイドビュー伊那路1号」「普通列車」

対岸に渡ったかと思ったら、元の岸に戻ってしまうS字鉄橋こと「第6水窪川橋梁」は、最徐行で通過。
もちろん、なぜこのような線形になってしまったのか車掌さんによる解説付き。

川の上で曲がってます

「全国秘境駅ランキング」第3位の小和田駅。
痛みも少ない木造の駅舎なのですが、普通に利用する人はいないのでは・・・。

小和田駅(右端の「秘境駅号」が止っている所がホーム)

なにしろ駅前に立つ元製茶工場が、こんな感じなのですから。

荒れ果てた製茶工場跡(これでも駅前です)

そして、その隣にある民家跡。

内部は荒れ果て幽霊屋敷のよう(暗くなってから来ようとは決して思いません)

民家跡の脇には、1972年1月31日で販売終了したミゼットが・・・。
こんなものまで、駅の隣接地に放置されています。

左のコンクリート壁(コケに覆われている)の上が小和田駅

「全国秘境駅ランキング」第79位の伊那小沢駅。
桜がちょうど散り始めた時期でしたが、373系車両、駅構内踏切ともマッチして良い雰囲気。

旧型国電時代に来たかった・・・

「全国秘境駅ランキング」第6位の田本駅。
なぜか、山の斜面中腹に作られた駅で、右は山、左は崖です。しかも、ホームの両端がトンネルに。

山、山、山!

「飯田線秘境駅号」。
これまでに私が乗車した観光系列車の中で、最も楽しめた列車でした。
乗車中に、ひしひしと伝わってくるのが「飯田線秘境駅号」に携わっているJR東海社員さんのやる気。
それが、なんとも心地よいのです。

乗車券の他に安価な急行券で乗れるこの列車は、単体で算盤勘定をすると収益は無いに等しいと思います。
ですが、列車単体の収益よりも「秘境駅号」をきっかけにして、収益の厳しいローカル線である飯田線を知ってもらい、そして盛り上げていこうとする気持ちが伝わって来るのです。
それが、車掌さんの車内放送であったり、停車中の運転士さんとの会話、制服組ではない社員さんの奮闘ぶり、フレンドリーさから伝わってきます。

鉄道会社として、こうした柔軟な発想と企画が持てるということは素晴らしいことではないでしょうか。
鉄道の収益を根本的に支えるのは、極く一部の富裕層ではなく、平均的な一般利用者であることに疑う余地はありません。
富裕層をターゲットにした豪華列車の運行ばかりが目に付く今日この頃ですが、「飯田線秘境駅号」は、一般利用者が気軽に乗れ、しかも乗って楽しい列車の旅を提供してくれます。
地味ではありますが、草の根運動のような、こうした取り組みは利用者として応援したくなります。
鉄道が好き、旅行が好きと言う方には、ぜひ1度は乗っていただきたい列車です。